ときめき☆ファイヤーブレス

朝の通学風景。

今日はこの冬一番の冷え込みで、学生たちの吐く息は白く、

この物語の主人公、むう子もそれはもう通学とは思えないほどの重装備である。
毛糸の帽子に耳あて、スカートの下にはモモヒキをばっちりはき込んで、
毛糸の手袋をこすりこすり歩いているのです。

むう子「さ、さむー」

あたりを同じ方向に進んでいく学生たち。
みんな寒さで手をこすり合わせ、息を手に吐きかけています。
むう子も真似してみます。

むう子「はふー」

むう子が息を手に吹きかけると・・・

ファイヤーブレス!!

むう子の口からは炎がぼぼぼぼぼと噴出し、お気に入りの手袋は炎上!

むう子「むわっ」

あわてて手袋をはずして放り投げ、息をとめようとしますが勢いで近くの垣根に引火!
なんてんの垣根がゴーゴー燃え出しました!

むう子「しまった!スタコラーッシュ!!」

ダッシュでぱたぱたとその場から逃げるむう子。
燃え盛る垣根に学生たちは「お、ラッキー!」とかいいながら暖をとっております。

むう子、ダッシュの途中でいきなりストップ。
カメラ目線。

むう子「わたし、むう子!」

近くにいた女学生A「えっ?わたし幸恵」

むう子「純情可憐な高校2年生!」

近くにいた学生B「お、タメじゃん?」

むう子「平凡に見える私だけど・・・実は秘密があるの・・・」

女学生A「え、なになに?」

学生B、携帯を取り出して「おい、なんか女の子いきなりしゃべりだして秘密の告白とかいってるぞ!はやく来いよ!」

なんかぞろぞろ集まってくる学生たち。

むう子「じつはわたし・・・12代目バハムート、竜の王なのっ」

あつまってきた学生たち「・・・へ〜そうなんだ〜」

むう子「みんなにはナ・イ・ショね!」

女学生A「ないしょなのかー」

学生B「え、まじかよ!携帯でみんなに言っちゃったよ!」

どうやら今のは、モノローグ的なものだったらしい。
むう子はカメラ目線で投げキッスをすると、また日常のシーンにもどった(らしい)。


むう子「ふー、寒いな〜。学校とおいよ〜」

だだだっと後ろから、ガングロギャルが走ってくる。

ガングロギャル「むう子先輩!マジ待ってくださーい」

むう子「あ、おはよ〜」

ガングロギャル「マジおはようございまーっす」

このガングロギャルの名前はえりか。
渋谷のセンター街でチーマーに絡まれていたところ、
偶然むう子が通りかかり、助けられたことからむう子になついているのだ。
ちなみに、むう子が若干活躍しすぎたため、渋谷センター街はチーマーもろとも炭化した。

えりか「ちょっとーむう子先輩マジカンベンしてくださいよー!なんすかその格好」

むう子「え、だって・・・寒いじゃん・・・」

えりか「マジヤバっす!超いけてないッスよー」

むう子「そんなー」

えりか「竜ってけっこう寒がりなんスね」

むう子「物語序盤でもう正体ばらしてるじゃんよー!

えりか「それはそうと後ろの方で家が火事なんすけどまた先輩っスか?」

おそるおそる後ろの方を見ると、家がぼうぼう燃え広がっている。
学生たちが暖をとるためにたくさん集まっていて、
それを目当てに焼きイモ屋の出店まで出ている。

えりか「超マジ尊敬します。竜の知り合いがいるやつなんてあたしの他にいないッスよー!」

むう子、口に指を当てて「しー!」

むう子「いい、誰にも言っちゃだめよ!」

そんな人の話をサッパリ聞かない現代っ子のえりかは、ある人物を見つけてイヤな顔をする。
えりかの視線の先には、学生がひとり。
通学中にもかかわらず、アートナイフでパテの塊を削りながら歩いている。

えりか「うわキモ!マジキモ!半田キモ!」

むう子「半田くん・・・」

えりか「え」

むう子の目はハートです。
背景には色とりどりの花。

学生A「あれ、なんか暖かくなってね?」

学生B「なにこの花、ジャマだなあ」


むう子は半田くんを見てトキメいています。

えりか「ちょ、ま、マジっすか!?」

むう子「な、なによー」

えりか「むう子先輩マジ趣味悪いっす!ありゃオタクとか通り越してド変態っすよ!」

むう子「そんなことないよ!純粋なんだよ!ピュアボーイなんだよっ」

えりか「いや頭おかしいっすよー!こないだもえりかの親友(マブ)が『耳の形がいい、
型取りさせてくれ』とか言われてどん引いてたしありゃいつか捕まりますよ!」

むう子「探究心がおおせいなんだよ!自分探し中の孤独な戦士なんだよっ」

えりか「マジきんもー☆って感じ。痛風にでもなればいいのに!」

むう子「あ?」

周囲の空気が凍りつく。
むう子の目が黄色く、縦長に変化し、ネコの目のようになる。
その目を見た半径20メートル以内の人物に対して「魅了」「鈍化」効果発動。
5メートル以内の人物に対して「服従」「拘束」効果発動。

えりかはガクガクと震えだし、失禁。

えりか「あ、あうあ」

むう子「よく知りもしないで、人のことをそんな風に言うのはどうかな・・・」

えりか、息もできず、空気をもとめて口をパクパクさせ、胸をかきむしる。

むう子「(ニコっと笑って)気をつけようね!」

むう子の機嫌が戻ると、えりかはその場に倒れこみ、ピクピクしている。
同様に目を見てしまった学生もあちらこちらでパタパタ倒れる。

むう子「半田くん・・・」

前を歩いていく半田の背中を見つめながら、胸をときめかせるむう子であった。



授業中

教師がチョークで黒板をカツカツたたいてる。

教師「いいか、ここ試験に出るぞー」

半田はクラスの一番後ろ、窓側の席。
むう子はそこから少し離れた席に座ってる。
半田がおもむろに電子はかりを取り出すと、紙コップをのせた。

学生A「ぬわ!半田が複製作業にはいった!」

学生B「窓開けろ窓!」

女学生A「換気よ換気!」

半田はそんな騒ぎも気にせず、黙々とA液とB液をかくはんし、型に流し込む。

教師「半田!いま授業中なんだが」

半田、教師をジロリとにらむ。

半田「なんだ?」

教師「いや、いま授業中」

半田「(ふと何かに気づいて)貴様、そのジャケット安物だな。
ポリエステルが含まれている・・・そのパターンはまだ作ったことがないな・・・」

教師「は?」

半田「動くな!」

教師「は、はい」

半田はそばまで行くと、ジャケットのシワを確認。なにやらメモっている。

半田「ふむ・・・この手の量販店型大量生産ジャケットのシワはこうなるのか・・・袖口の切り返しはいい加減なものだな・・・」

教師「し、失礼な!」

そんなやり取りを、にこにこしながら見ているむう子。
まさに恋は盲目、なのである。

しかしそんな平和なむう子の日常に、
今、最強最大の敵が迫っているのであった・・・

突然ガラガラ〜と引き戸が開く。
そこには、なんかいかにもコスプレな男が立っている。
頭には兜、体は鎧、腰には剣をさしている。

教師「な、なにかね!今は授業中だがっ」

コスプレ男「あ、すいません・・・あとどれくらいで終わりますか?」

教師「うむ、あと20分ほどだ」

コスプレ男「わかりました、廊下で待ってます」

がらがら〜ぴしゃん。

教室の学生たち&教師「・・・」

学生A「な、なんだアレ」

女学生A「今、一瞬すごい人が来たような・・・」

むう子はそんなのまったく無視して、作業に没頭する半田を見ている。

コチコチコチと秒針の音が鳴り響き、授業の終了が近づいてくる。

キーンコーンカーンコーン

終業のベル。

教師「では、これで授業を終わる。日直」

日直「きりーつ(ガタガタ)礼(ぺこり)ありがとうございました〜」

教師が出て行こう引き戸を開けると、さっきのコスプレがいる。
教師が右に出ようとすると右に、左に出ようとすると左に。
コスプレ、さっと右によけると道を譲り、礼をする。

学生A「どんくさいやっちゃなー」

女学生A「でも以外に礼儀正しいよ」

コスプレ、つかつかと歩いてくると、教壇に立ち、クラスを一望する。

学生B「さあ、なんだ」

学生C「どうした」

コスプレ、首をかしげて

コスプレ「違う・・・これは勇者じゃねえ・・・」

学生A「は?」

コスプレ「すまん、やりなおす」

コスプレはそういい残すと、教室をスタスタ出て行って引き戸をぴしゃりと閉める。

学生A「な、なんだったんだ・・・」

そして次の瞬間、コスプレ男は勢いよく引き戸を開けると開口一番。

コスプレ「フハハハハ!ここが悪の巣窟か!」
わざとらしく周囲を見渡す。

コスプレ「だが我らにとって恐れるものなどなし!」

自身ありげな不敵な笑み。

コスプレ「悪の親玉、竜王バハムートよ!貴様を成敗に来た!」

その指はむう子を捕らえている!

コスプレ「き、きまった・・・きまりすぎた・・・」

感動しているコスプレ。

学生A「あの・・・アンタだれなの?」

コスプレ「良くぞ聞いた悪の手先ゴブリンよ!我が名は勇者ロヒサマ!世界の平和を守るべく、バハムートを葬りにきたのだ!!」

学生A「声でけーなあ」

当のむう子は半田を見てうっとりしている。

勇者ロヒサマ「貴様!聞いているのかっ」

勇者ロヒサマはすらりと剣を抜く。

学生B「うわっあぶなっ」

女学生「抜刀したわっ」

勇者ロヒサマはツカツカとむう子近づくと、剣をむう子に突き出す。

勇者ロヒサマ「どうした、我が聖剣の前に声も出ないか」

むう子、やっと気づいて、

むう子「え、わたし?」

勇者ロヒサマ「貴様の悪の所業もこれまでだ!」

するといつのまにか半田が勇者の体をペタペタさわりまくっている。

半田「FRPか・・・」

勇者ロヒサマ「素材のことは言うなー!」

半田「デザインが古いな・・・まあありがちな王道ファンタジー系というやつか・・・」

勇者ロヒサマ「王道?そう・・・それはまさにオレのためにある言葉だ・・・」

むう子の心の声『半田くんが私をかばって助けてくれてる・・・』

むう子はぽっと頬をそめる。

半田「まあソコソコの出来ではあるな。及第点をやらなくもない。ちょっと動いてみてくれ」

勇者ロヒサマ「な、なにを・・・まあいい。おれさまの剣技、しかとその目で焼き付けるがよい」

勇者ロヒサマはいきなりむう子の机にとびのった!

勇者ロヒサマ「ふっ・・・勝ったな」

学生A「な、なにが?」

勇者ロヒサマ「地形効果だ!」

学生B「は?」

勇者ロヒサマ「このような高低差のあるマップでは、高い場所からの攻撃が絶対有利!命中率も20ポイントアップだ!!」

女学生A「ちょっとー!机に乗らないでよー!よごれるでしょー!私今日掃除係なんだから!」

女学生A、机の足をグラグラゆする。

勇者ロヒサマ「ちょっ・・・揺らすな!う、うわああああ」

ロヒサマはもんどりうって机から転げ落ち、頭をうった。

勇者ロヒサマ「すげーいたい!くそ・・・悪の軍団め・・・」

勇者ロヒサマ「かくなる上は・・・悪の大ボス、竜王バハムートを葬ってやる!」

勇者ロヒサマは剣をぶんぶん振り回すと、ビシっと構えた。

勇者ロヒサマ「我に最後の力を!ロヒサマ真空ダイナミーック!!」

稲妻とともに切りかかる勇者ロヒサマ!!

その剣がむう子におそいかかる!!



こい〜ん

軽い音を立てて、むう子の肌ではねかえった・・・

むう子「?」

勇者ロヒサマ「くそ・・・さすがドラゴンスケイル・・・通常の剣では歯が立たぬわ・・・」

むう子はきられた肩の辺りをポリポリとかいている。

勇者ロヒサマ「しかし!私には心を同じくする硬い絆で結ばれた同志がいる!勇者といえばパーティーだからなっ」

勇者ロヒサマ「紹介しよう・・・まずは僧侶、チミサマ!」

がらがらがら〜っと引き戸をあけ、袈裟を着た坊さんが入ってくる。
学生たちに、礼儀正しくお辞儀をひとつ。
年は50くらい・・・立派な感じのお坊さんだ。

学生A「ぼ、ぼうさんだ」

学生B「た、たしかに僧侶だ」

不意に、電子音でゴッドファーザーが鳴る。

僧侶チミサマ「あ、あたしですな、すいません」

僧侶チミサマは携帯を取り出すと、ちょと照れたように後ろを向いて話し出す。

僧侶チミサマ「あーもしもし・・・あらら、そうですかね・・・わかりました・・・はい、はい」

僧侶チミサマ「おい、まさひろ。タバコ屋の加藤さんのばあちゃん亡くなったってよ。おれ行ってくるわ」

勇者ロヒサマ「お、おやじ!?」

僧侶チミサマ、学生たちに一礼すると教室を出て行く。

勇者ロヒマサ「そんな、おやじ・・・」

学生たち一同「・・・」

学生A「父かよ」

学生B「寺の息子かよ」

勇者ロヒサマ「うるさい!僧侶から勇者へのジョブチェンジと言え!」

女学生A「まさひろって・・・」

女学生B「勇者まさひろ!まさひろよ!」

学生A「じゃあ僧侶チミサマって・・・」

学生B「正道なんだろ・・・」

勇者まさひろ「うるさい!仲間の死を乗り越えてこその冒険だ!」

学生A「父ころすなよ」

勇者まさひろ「ふっ・・・しょせん僧侶など回復役に過ぎぬ!本当の仲間はこれからだ!」

勇者まさひろ「魔法使い中野さん!カムヒア!!」

がらがらがら〜っと引き戸をあけ、妙にオドオドした中年営業マン風の男が入ってくる。

魔法使い中野さん「ど、どうも・・・」

学生A「魔法使い!?」

学生B「このひとが!?」

勇者まさひろ「ふふふ・・・」

魔法使い中野さん「ええ・・・まあ・・・」

勇者まさひろ「説明しよう!」

魔法使い中野さん「え、ちょ、ちょっと」

あせって止めようとする中野さん。

勇者まさひろ「男はだれでも、25歳過ぎても童貞だと魔法が使えるようになるのだ!中野さんは32歳!レベル7魔法使いだ!!」

魔法使い中野さん「そんな・・・大声で言わなくても・・・」

女学生A「童貞!」

女学生B「チェリー!」

学生A「うっ・・・ああはなりたくねえ・・・」

学生B「ううっ・・・オレああなる可能性大なんだが・・・」

学生C「しかし仲間なのに「さん」づけかよ」

魔法使い中野さん「まだ会って日が短いからね・・・」

勇者まさひろ「最初は距離があるが困難をともに乗り越えていくうちに親密になっていく・・・それが勇者パーティーだ!!」

魔法使い中野さん「あの・・・まさひろくん、仕事中なんで・・・」

勇者まさひろ「あ、はいはいチャッチャと進めます。最後は!」

学生A「もう最後かよ」

学生B「4人パーティーなのね・・・もう3人だが」

勇者まさひろ「遊び人!誠也」

一同「・・・」

学生A「遊び人?」

学生B「ドラクエにしかないジョブじゃないか・・・」

クラスの一角で、なぜか異様な盛り上がりを見せるところがある。

日焼けしたイケメンがクラスの女の子たちとしゃべっている。

イケメン「いや、マジだって!君たちマジレベル高いよ〜」

女学生C「え〜」

女学生D「まじで〜」

イケメン「なあ、みんなでフケてカラオケいかない?」

女学生E「まじ〜?」

女学生F「ミスチル歌える?」

イケメン「いやそれまじ十八番なんだけど!」

女学生C「行っちゃう?」

女学生D「いこっか〜」

女学生E「アリでしょ〜」

そして、イケメンは女子たちの肩を抱いてカラオケボックスへ行ったのでした・・・


全員「・・・」

学生A「あれがそうなのか?」

学生B「まじで遊び人じゃないか・・・」

勇者「ふ、ふん!中野さんさえいれば大丈夫だ!」

その時、ふいに魔法使い中野さんの携帯がなる。

魔法使い中野さん「あ、ちょっとまってね・・・もしもし?」

イケメン(遊び人誠也)「あ、中野さん?そっちはまだやってんの?」

魔法使い中野さん「あ、うん・・・」

イケメン(遊び人誠也)「こっちは盛り上がってるぜ〜(電話を女学生たちに向けるとみんながイエーイとかいってはしゃいでる)」

魔法使い中野さん「うわーいいなー」

イケメン(遊び人誠也)「なあ、男メンツたんないんでこっちこない?」

魔法使い中野「いや・・・でもぼくなんか行っても・・・」

イケメン(遊び人誠也)「中野ちゃ〜ん!マジ硬すぎるよ〜。まあ待ってるからさ(カチャリ)」

魔法使い中野さん「・・・」

勇者まさひろ「さあいくぞ中野さん!!フォーメーションエックス!作戦は『ガンガンいこうぜ!』」

魔法使い中野さん「ごめん・・・」

勇者まさひろ「は?」

魔法使い中野さん「人生で2回しか来ないスポットライトのうちの一回がきたんです!ごめんねー!!」

魔法使い中野さんは走って教室から出て行った・・・


「・・・」

学生A「またひとりになったな」

勇者まさひろ「勇気だけが友達だ!!」

学生B「何がしたいんだよ・・・」

勇者まさひろ「こうなったら作戦タイムだ!!」

勇者まさひろは床に座り込むと、ザックをあけて本を取り出す。
それは何かの攻略本で、オビに「ファミ通の攻略本だから大・丈・夫」とかかかれている。
熟読をはじめる勇者まさひろ。

時計の秒針の音だけが教室になり響く・・・


がらがらがら〜

その時、引き戸を開けて現れた者が一人!

そこに立つのは・・・中野さん!

中野「いやースマンスマン」

なぜかニヤついた表情の中野さん。

勇者まさひろ「中野さん!!いや、おれは信じてた・・・必ず来てくれるって!」

中野「いや、うん」

勇者まさひろ「よーし!今度こそ行くぞ!作戦は『いのちをだいじに!!』」

学生A「いきなり消極策じゃないか・・・」

女学生A、トランプ中のむう子に

女学生A「なんかやっと出番みたいよ」

むう子「えー、いまいいところなのにー」

むう子はしぶしぶといった感じで勇者まさひろの前に立つ。

勇者まさひろ「よし、おれがつっこむので中野さんは後ろから援護たのむ!」

中野さん「あー、はいはい」

女学生C「ミッチー!がんばってー!」

中野さん「まかせてよカオルちゃーん!いくぞ、炎の矢!」

魔法は出ない。

中野さん「いや〜やっぱでないやーアハハハ」

女学生C(カオル)「だよね〜」

カオルが中野さんの腕に抱きつく。

学生A「はっ」

学生B「まさか・・・」

勇者まさひろ「おまえらヤったなー!!!」

女学生A「そういえば帰ってきたときから名前の前に『魔法使い』って書かれていないわ・・・」

中野さんと女学生Cは中よさそうに腕を組んで出て行ってしまう。

勇者まさひろ「犬みたいにコロコロひっつきやがって・・・」

半田「くだらぬな・・・」

複製作業を終え、キットの袋詰めまでを終わった半田がつぶやく。
半田のキットは『魔法少女ねくろ・のみこん』である。
半田は完成見本を塗装しながら言い捨てた。

半田「現実の女に転ぶなど・・・クソのような男だな」

ションボリしてしまうむう子。

その姿を見て、女学生Aは半田にくってかかった。

女学生A「そんな言い方ってないでしょー!アンタもそんなオモチャで現実逃避してないでちょっとは女のこのこととか考えないの!?」

半田「は!たかが現実!!」

女学生「そんな魔法が使えたり語尾にうぐうとかつく女いるわけないじゃん!」

半田「夢の中じゃいつだって会ってるさ!!」

勇者まさひろ、学生Aに対して

勇者まさひろ「なあ、オレ微妙に無視されてないか?」

学生A「微妙じゃねえよ・・・」

学生B「まさひろガン無視だよ・・・」

勇者まさひろ「クソ・・・」

勇者まさひろ「ドラゴン退治は勇者の晴れ舞台!それをよくも!!」

勇者まさひろ「バハムート!貴様を倒してオレはドラゴンスレイヤーの称号を得るのだー!!」

剣を振りかざして突っ込んでくる勇者まさひろ!

しかし、目の前にいた半田にぶつかって突き飛ばしてしまう。

勇者まさひろ「貴様、ジャマするか!」

はねとばされた半田はむう子に折り重なって倒れてしまう。

ちょうどむう子の目の前に半田の顔が・・・

主人公むう子!はやくもキッスのチャンスか!?ラブチャンスか!?

ドキドキするむう子。

むう子「半田くん・・・」

半田「つっ・・・」

朦朧とした意識の中、半田はむう子のあるところに触ってしまう。
そこは首の後ろの小さな鱗(うろこ)・・・
逆鱗である!!

ドクン!!

むう子の胸が急速に高鳴る。

立ち上がるむう子。

勇者まさひろ「ふっ・・・ついにやる気になったか・・・」

周りの学生たちは、あわてて教室の外に飛び出していく。

むう子の目が黄色く変色し、縦長の瞳になる。
髪は白く変色し、爪が残酷に伸び、背中からは翼が曲がりくねって伸びていく。

勇者まさひろは硬直し、声が出ない。

半田は、朦朧とする意識の中、むう子を見た。

半田『うつくしい・・・』


むう子「わが逆鱗に触れたのはきさまか・・・」

勇者まさひろ「・・・(口をぱくぱくさせている)」

むう子「ではわが逆鱗にふれたのはだれじゃ・・・」

ガラガラガラっと引き戸が開き、クラスメート全員がまさひろをゆびさす。なぜかイケメンと中野さんもゆびさしている。
そして大慌てで引き戸を閉めて退散。
勇者まさひろは顔の前で小さくいやいやいやと手をふっている。

むう子、大きく息を吸い込むと体を弓なりにしならせる。

上を向いて小さく開いた口からは炎の舌と蒸気が漏れている。

吐き出そうとしたその瞬間!

半田がむう子に抱きついた!

半田「見つけた!ついに見つけたぞ!これぞ理想の女!!」

むう子「へ?」

半田「すばらしい!!」

半田は大喜びで抱きつく。

むう子はびっくりして、いつの間にか変身がとかれていた。

半田、あらためてむう子を見る。

半田「あれ?」

半田、むう子をぽいっとほおりなげる。

半田「今の女はどこに・・・」

半田はきょろきょろと探している。

そして、勇者まさひろが小便を漏らしながらヘナヘナとくずれおちた。



勇者まさひろ「ほんとすいません・・・竜王を倒すと手に入るドラゴンスレイヤーの紋章がほしくて・・・」

まさひろは正座しながら泣き崩れている。

学生A「迷惑だ!」

女学生B「教室なくなるとこだったじゃないの!」

勇者まさひろ「すいません・・・できごころだったんです・・・」

半田が何かの資料本を持ってくる。

半田「おい、おまえ」

勇者まさひろ「は、はい」

半田「コレか?」

そこには、ゲームの資料のドラゴンスレイヤーの紋章が載っている。

勇者まさひろ「あ、はい・・・ソレっす・・・」

半田「30分待ってろ」



自分の机で、紋章を彫り始める半田。

むう子がおそるおそる近づく。

半田「なんだ」

むう子「ごめんなさい、わたしのせいで」

半田「ふん・・・練習だ」

むう子「何か手伝わせて」

半田「ん?・・・そうだな、ペーパーでみがいてみろ」

むう子「う、うん!」

半田、むう子の顔をじっとみつめる。なぜかさきほどのドラゴン娘とだぶる。

むう子「な、なに?」

半田「いや、はじめてにしては悪くはないな。しかしそこはあて木をあててだな・・・」

この超地味な優しさに触れて、
むう子はあらためて半田のことが好きになっていくのでした。



さて今回はここでおしまい。
この後、世界を揺るがすような大事件がむう子を!半田を!
そして女学生Aを襲うのだが、ソレはまた別のお話である・・・



ときめき☆ファイヤーブレス






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